世紀末の果てに  【北斗の拳】

V.旅路の果て

1.ラブ・ストーリーは突然に

 かつてのラオウの愛馬「黒王号」に跨るケンシロウでしたが、その黒王号がいきなり天に召されてしまいます。ユリアを失い、そして黒王号も失い、とうとう本当に独りとなってしまったケンを更なる悲劇が襲います。
 それは突然の落雷による記憶喪失。自分が何者かも分からなくなってしまったケンは、いよいよ当てもなく彷徨う事になります。
 そんなケンの前に現れたのが、以前共に旅をしたリンバットでした。しかしリンもまた、ケンシロウと同じく記憶喪失になっていたのです。

 「北斗の拳」で唯一第1話から全編にわたって登場した3人。時を経て再び一同に会することとなりましたが、まともなのはバットだけという余りにも悲惨な状況です。

2.ゼロからの再出発

 修羅の国でカイオウにより「死環白」という、それまでの記憶を失った上に、目覚めて最初に見た人間を愛してしまう極悪な経絡破孔を突かれてしまったリン。しかしケンシロウの配慮により、リンを愛するバットに託され、2人はめでたく結ばれることになりました。
 しかしバットはリンとの新しい生活を続ける内に、リンの自分に向けられた愛が死環白による偽りの愛である事に耐えられなくなります。そして全てをリセットするため、リンの秘孔を突いて再び記憶を奪い、彼女が本当に愛していたケンに会わせるために旅に出たのです。
 そして再会したケンとリン。しかも何の因果か2人とも記憶喪失状態。これを絶好の機会と感じたバットは、今度こそ2人きりでやり直させるために、そっと姿を消します。

 記憶を失ったままバットに置き去りにされた2人。なし崩し的に新しい生活を始める事になりましたが、そんな彼らの前に不吉な影が迫ります。

3.過去からの刺客

 以前、ケンシロウにより目の光を奪われた男「ボルゲ」。その後もケンに復讐すべく、しつこく探し回っていました。そのボルゲが近くまで迫って来ると、バットは記憶喪失中のケンがボルゲと接触するのは危険だと判断し、あえて「ケンシロウ」を名乗る事にします。
 そう、バットはケンを装ってボルゲに殺される事でその復讐心を満足させて、2人の新しい生活を守ろうと考えたのです。失明しているボルゲはバットをケンシロウだと思い込み、すぐには殺さずに嬉々として手酷いリンチを加え、なぶり殺しにします。

 そこへやって来たケンとリン。バットの悲壮な姿と、自己を犠牲にして2人を守ろうとした壮烈な魂がケンとリンの心を激しく揺さ振り、遂に2人の記憶が蘇りました。

4.終わりなき旅

 復活した北斗神拳でボルゲを瞬殺したケンシロウは、リンの愛に答えて欲しいというバットの願いを聞き入れ、リンと共に旅に出ようとします。ところがリンは、ようやく自分の本当に愛するべき人が誰なのかに気付き、バットの許に残る決意をしました。
 今度こそ本当に結ばれた2人を無言で祝福し、ケンは再び旅に出ます。巡り巡ってまた孤独になり、荒野を流離うケンシロウ。ラオウやカイオウが消えても争いが無くなる事はなく、彼の戦いはまだ続いて行くのです。

 バイオレンス描写がウリながらも「」をメインテーマに据えていた北斗の拳。最後は一見意外ながらも、これしかないと思わせる直球のラブストーリーで締め括りました。