もう一つのゲームセット  【タッチ 背番号のないエース】

W.あの人達のその時

 原作で登場した主要キャラクター達は、映画では一体どんな経過を辿ったのでしょうか。簡単な紹介と、映画で最後に遺した言葉。

 

【浅倉南】
 容姿端麗、成績優秀、運動神経抜群、当然人気も高いという、まさに空想上の生物。中学時代はバレー部所属、高校では野球部のマネージャーとなって部員を支えました。
 決勝のマウンドに現れた和也が「達也」であることに気付いた南。そして原田から事情を聞くと全てを悟りました。一体なぜ達也が偽りの姿で慣れない投球を続けるのか。その真意を知った南は、もはや涙なくして観ることは出来ませんでした。

 イケメン双子の間で揺れ動くヒロイン・・・と、誤解されがちですが、南は物語スタート時から最後まで達也一筋。和也にも、ましてや新田にも、その想いが揺らぐことはありませんでした。
 しかし映画では幼き頃に「カッちゃんが好き」という微妙な発言をしています。兄弟はこの言葉を非常に重く受け止めていましたが、当時の南の思考回路は「ピッチャーが好き→なのでピッチャーの和也が好き」程度のものだったと思われます。
 

「・・・ッちゃーん!」

 

【原田正平】
 女は面倒臭いと言って憚らない男ですが、実は南に惚れていたことが明らかになります。
 達也をボクシング部に勧誘する役割は原作と同じ。そして映画では、和也死亡の事実を直接南に伝えるという大役を与えられました。さらにラストカットでは涙のアップ、そして映画の最後の台詞も担当するなどかなり厚遇されています。

 サブキャラが存在感を失った映画版において、唯一アニメ版と変わらない存在感がありました。
 

「悲しいぜ・・・」

 

【上杉和也】
 容姿端麗、成績優秀、運動神経抜群、当然人気も高いという、南と同一の能力を持つ人物。そのせいかベストカップルに選出されることも多く、周囲もお互いの親も公認の仲でした。
 その想いは物心ついた時から南一直線。南の夢を叶えるためだけに、その人生を捧げました。一方で大変な兄想いでもあり、達也が自分を立てるために一歩引いていることもちゃんと分かっていました。そしてその兄が自分以上に南を理解しており、そこに南が惹かれていることも。

 映画では、より兄想いになっており、原作ほど南への執着心はないようです。ちなみに和也の余りに突然すぎる死は、人気上昇のためのテコ入れとしてではなく、連載当初からの規定路線でした。
 

「分かった。」

 

【上杉達也】
 和也生存時は、いつもぐうたらで賢弟愚兄の代名詞のような人物でした。しかしそれは和也の南に対する真っ直ぐな想いに気付き、ぶつかるのを避けるために身を引いたからでした。
 和也死亡後の目覚しい活躍は、決して目の上のコブが消えて伸び伸びし始めたわけではなく、単に「ダメな兄貴」を演じる必要がなくなっただけのことです。

 病院で和也の死を受け入れるや、映画ではすぐに球場へ向かったため、霊安室での「キレイな顔してるだろ」のシーンはありません。
 亡き弟に成り済まして登板するというトンデモな設定となったため、賛否両論はありますが、あくまで映画は原作ありきのifストーリー。和也の死に対する達也の、もう一つの受け止め方を描いたに過ぎません。
 

「和也!」